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スネオの夏 その3
感動の最終章だ・゚・(ノд`)・゚・

その1その2を読んでから読むんですよ






スネオの夏

http://ex14.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1137913187/

スネオの夏
スネオの夏 その2
スネオの夏 その3





517 :1 ◆vC.kHTi4RE :2006/01/23(月) 15:03:48.54 ID:8HClBXzD0
帰路。足取りはひどく重かった。
とっぷりと日が暮れたころ、ようやくと僕は家に辿り着いた。
窓から洩れる光が、眩しい。
眩しくて、少し目がくらんだ。

スネオの家の暗さを思い出した。
彼の、真っ黒に落ち窪んだ目を、思い出した。
暗澹とした気分が僕を包む。

「ただいま……」
ふすまをガラリと開けると、そこにはドラエもんがいた。
珍しい。あの日からというもの、ご飯を食べる時と
必要に駆られて外出する時以外は、ほとんど押入れの中にいたドラエもんが。

何より僕を驚かせたのは、ただそこにいるだけではなく、ひどく機嫌が良さそうだったからだ。

「おかえり」
にこにこと笑って僕を出迎えてくれる。
彼の笑顔を見たのも、やはり2ヶ月ぶりだった。

518 :1 ◆vC.kHTi4RE :2006/01/23(月) 15:10:38.32 ID:8HClBXzD0
「どうしたの。珍しいじゃない、押入れから出てくるなんて」

僕は直截にそう告げた。ひどく疲れた頭では、
思いやりのある言葉なんて、何一つ浮かばなかった。
しかしドラエもんは別段気にした様子もなく、
相変わらずにこにこと笑っていた。
僕は少し安心した。

「のび太くん!聞いてよ!四次元ポケットが返ってきたんだよ!」

四次元ポケットが返ってきた――彼のその言葉に、僕は少なからず驚いた。
しかし僕は何も言わず、黙ってドラエもんを見つめた。

「これでやっとスネオくんを探せるね!今どこでもドアを出すから、待っててね!」
そう言ってごそごそとポケットを探り始めるドラえもん。
その手を無言で制する僕。
ドラエもんは、きょとん、とした顔で僕を見ている。

「どうしたのさ、のび太くん」
「スネオは、見つかったんだ」

522 :1 ◆vC.kHTi4RE :2006/01/23(月) 15:14:57.75 ID:vxRdQm6A0
「スネオくんが?」
「そう、さっきまで会って、話してきた。だからもういい、もういいんだ……」

ぴたりと押し黙るドラエもん。
僕の言葉の外に、深刻な事情を感じ取ったのかもしれない。
ドラエもんは、黙ってタイムテレビを取り出すと、かちゃかちゃと操作を始めた。
おそらく僕とスネオとの、一部始終を知るために。

あの光景をもう一度見る気にはとてもなれず、僕は黙って庭の物置に向かった。

523 :VIPがお送りします :2006/01/23(月) 15:15:45.48 ID:DWYUL2c0O
のび太の心境と対照的に浮かれているドラえもんの姿が一層暗い雰囲気を際立たせていて切ない

527 :1 ◆vC.kHTi4RE :2006/01/23(月) 15:18:03.32 ID:8HClBXzD0
気づくと、眠っていた。夢のない眠りだった。
起きると物置の中は真っ暗で、僕は目を開けているのか、
それとも瞑っているのかさえ、分からなかった。

戯れに、闇に向かって手を伸ばす。
何も掴めない。何も触れない。
暗闇の中で、ただ僕一人が存在していた。
いや、本当に存在しているのかも、分からない。何も。

不意に一筋の光が差し込んだ。
後光を纏って、ドラエもんが扉の外に立っていた。

535 :1 ◆vC.kHTi4RE :2006/01/23(月) 15:22:52.86 ID:8HClBXzD0
「のび太くん……」

アルカイックスマイル、とでも言うのだろうか。
底抜けに優しい微笑みを浮かべながら、ドラエもんはそっと僕の肩を抱いた。

手が、僕に触れた。
ひんやりとした手は、蒸し暑い夏に、ひどく心地よい。
でもそこから伝わる温もりは、もっと。

「今度こそ、僕は、力になれるかな。
君の苦しみと、悲しみを、半分にできるかな」

ドラエもんは優しく僕に語り掛ける。
僕は彼にしがみつき、声を上げて、泣いた。

536 :1 ◆vC.kHTi4RE :2006/01/23(月) 15:27:45.60 ID:8HClBXzD0
部屋に戻り、僕とドラエもんは差し向かいに座った。
瞼が腫れぼったい。随分と泣いたものだ。
ドラエもんは、神妙な面持ちで何かを考えている。

「……ドラエもん、事情は分かっただろう?
お願いだ、スネオの為に、何かしてあげて……何か道具を出してあげてくれない?」

ドラエもんは、相変わらず厳しい顔をしている。
僕は構わずに続けた。

「もう頼れるのは君しかいないんだ。君の知恵と……君の道具に頼るしか…
僕にはそれくらいしか、もう……」
「事情は、分かったよ……」

ドラエもんは、一言一言かみ締めるように喋り始めた。
「でも、道具を出すことは……できない」

542 :1 ◆vC.kHTi4RE :2006/01/23(月) 15:33:23.14 ID:8HClBXzD0
ドラエもんは、笑って、任せてよ、と言って、道具を出す。
そうだと思っていた。そうだと信じていた。
予想外の彼の言葉に、僕の心は大きく動揺した。

「ど、どうしてさ!君なら、君の道具なら、彼を今の状況から救うことくらい、
簡単じゃないか!それなのに、なんで……」
「確かに、簡単だろうね。スネオくんのお父さんの借金を消すことくらい、
何ともないよ」

ドラエもんは一旦そこで言葉を区切り、でも、と続けた

「……でも、それでスネオくんが本当に救われるのかな」

その言葉に、深い闇を帯びたスネオの目を思い出した。
泣きながら笑う、彼の顔を、思い出した。
一人で生きていく――決然とそう言いのけた彼の言葉を、思い出した。

545 :1 ◆vC.kHTi4RE :2006/01/23(月) 15:38:01.15 ID:+b7jmPYc0
「もしもボックスで、借金を消すことはできるよ。
でも彼の心を、彼の闇を取り除くのは、タイムふろしきでも、無理なんだよ」

僕は、あっ、と思った。
借金が消えても、借金をした、という事実は消せない。
彼が経験した現実は、曲げることができない。
借金が消え、もとの生活に戻っても、スネオは、スネオだ。
それは、良くも悪くも、そうなのだ。
そして今のスネオは―――もう、誰にも心を開くことは、ないだろう。

「じゃあ、僕は一体どうすれば……」
悲嘆にくれる僕に、ドラエもんは、優しく言葉を発する。

548 :1 ◆vC.kHTi4RE :2006/01/23(月) 15:46:25.47 ID:8HClBXzD0
「のび太くん、いいかい、ちょっと分かりにくい話かもしれないけど……
確かに僕の道具は便利だよ。君だってそれは分かっているよね。
そんな君だからこそ、一番わかると思うんだ。」

ドラエもんはそこまで喋ると一息ついて、また、ゆっくりと喋り始めた。
「道具のために人があるんじゃなくて、人の為に、道具はあるんだ」

僕には一瞬、それが何を意味するのか、よく分からなかった。
だから黙って、次の言葉を待った。

「人の為に道具がある……まず人がいて、道具がある……
だから、まず、その『人』そのものがきちんとしていないと、
しっかりしていないと、どんな便利な道具でもそれは何の意味もなさないんだよ」

ドラエもんはいつだって説教くさい。
この言葉にだって、手放しで「分かったよ」なんて言うことはできない。
スネオの今をまず救うこと、例えスネオが今まともじゃなくても……
まずは何かをしてあげること、それが大事だと、やっぱり思う。

でも、ドラエもんの言うことは、やっぱり正しいんだろうと思う。
スネオの、あの目を思い出すと、なおさらに。
彼の言葉は、正しい。よく分からないけど、たぶん。
上手く言葉にはできないんだけど、きっと。

557 :1 ◆vC.kHTi4RE :2006/01/23(月) 15:54:01.25 ID:8HClBXzD0
「今、スネオくんは、道端でつまづいて、転んで、ひざ小僧から血が流れている。
泣いているスネオくんに、優しく手を差し伸べて、消毒してあげて、
絆創膏を貼ってあげることは簡単だろうね。」

曇り空の切れ間から、月が顔を出した。
今夜は、満月だった。柔らかな光りが、僕らの顔を照らす。

「でも彼は今、転んだまま、立ち上がろうとしていない。
そんな彼を無理やり立たせて、消毒させても、彼はきっと、何も変わらない。
ところでのび太くん、君はまだ、スネオくんのことを友達だと思っているのかい?」

突然、神妙な顔をしてそんなことを尋ねてきた。
唐突な質問に僕は一瞬言葉を失ったが、しかしすぐに、強い口調で、言った。

「僕とスネオは、今も、ずっと、これからも友達だ!」
キッパリと、言った。

ドラえもんは、すると、にっこり笑ってこう言った。

560 :1 ◆vC.kHTi4RE :2006/01/23(月) 15:55:03.06 ID:8HClBXzD0
「君がしてあげることは、
消毒してあげることでも、
無理やり手を差し伸べることでもない
人は、転んでも、何度だって立ち上がれるってことを、教えてあげることなんだよ
それができるのは、のび太くん、きみしかいないんだよ」

566 :1 ◆vC.kHTi4RE :2006/01/23(月) 16:01:53.32 ID:8HClBXzD0
ふと、懐かしい情景が蘇る。
僕はおばあちゃんっ子だった。
やさしい、おばあちゃんだった。
幼かった僕は、いつもおばあちゃんに甘えて、我侭を言って…そうやって過ごしてきた。

ある日のことだ。
僕は庭で遊んでいる時に、こけて、膝をすりむいた。
大きな声で泣き喚く僕は、おばあちゃんが優しく抱き寄せてくれるのを、ただ待った。
しばらくして、おばあちゃんはやって来た。
おばあちゃんはいつものようににこにこと笑って、僕を見ていた。
おばあちゃんは、しかし、僕を抱き寄せることをしなかった。
僕は、一層強く泣いた。
おばあちゃんは、片手に持っていた達磨を、僕の脇に放り投げた。
ころん、と転がる達磨。
ぐらぐらと揺れながら、けれど最後には、達磨は元のように立ち上がった。
「達磨さんも一人で起きれたよ。
のびちゃんも、一人で起きないとね」

そんな情景が。今蘇った。

570 :1 ◆vC.kHTi4RE :2006/01/23(月) 16:05:04.82 ID:8HClBXzD0
今のスネオは、あの日の僕だ。
痛みに泣き、寂しさに喚き、抱かない祖母を恨めしく思ったあの日の僕だ。

だから僕は、達磨を、スネオにとっての達磨を、あげよう。

僕と、そしてジャイアンで、スネオに、達磨を―――

586 :1 ◆vC.kHTi4RE :2006/01/23(月) 16:26:14.94 ID:vxRdQm6A0
道具は、使わない。そう決意した。
でも僕は、ドラエもんに一つだけ「あること」をお願いした。

ジャイアンと連絡を取った。
夏バテと、スネオがいなくなった喪失感から元気がなくなっているのは声だけで分かった。
しかしスネオが見つかったことを告げると、彼は幾分元気を取り戻した……ように感じた。

「僕は、今からスネオと話をしに行こうと思う。
だからジャイアン……君にも付いてきて欲しい」

無言。しかし電話越しに彼が頷くのは、ハッキリと分かった。

589 :1 ◆vC.kHTi4RE :2006/01/23(月) 16:30:56.27 ID:8HClBXzD0
月が、雲に隠れたり現れたりしながら虚空に佇んでいる。
星は、あまり見えない。
みんなで、様々な星へ行ったことも思い出した。
またみんなで、行けるのか、今は、分からない。
分からないけど、きっと。
きっと僕らは。

ジャイアンが家にやって来た。
若干痩せたようだ。目の下にも、隈が浮かんでいる。
しかしその目は強い決意と生気に満ち溢れている。
友を心配する光も、その目に少しだけ。

僕らは、どこでもドアでスネオの家に向かった。

592 :1 ◆vC.kHTi4RE :2006/01/23(月) 16:37:20.72 ID:8HClBXzD0
ドアを開けた瞬間、僕らは一瞬どこにいるのか分からなかった。
闇。完璧な、暗闇。
月明かりも何もかも、カーテンに遮断され、何も。
その中に、スネオはいた。
部屋の中でじっと押し黙っていたスネオは、僕らに気づくと、
嘗めつけるような目で睨んできた。

何しに来た、帰れ、帰れ、顔を見せるな。

言葉にせずとも、瞳が呪詛に渦巻いている。
絶望に彩られた瞳に、僕らは思わず気圧されそうになる。

逃げるな。前を向け。自分に言い聞かせる。
僕が、達磨を、投げてやるんだ。
左手に持ったあの日の達磨を握り締め、僕はスネオに声を掛けた。
「高井山に、行こう」

594 :1 ◆vC.kHTi4RE :2006/01/23(月) 16:43:44.16 ID:8HClBXzD0
「高井山?なんでそんな所に行かなきゃならないんだよ」
スネオは冷たく笑う。

僕は黙る。

「行きたきゃ勝手に行けよ。なんで僕が……」
ため息をついて、そっぽを向く。

僕は黙る。

「大体、もう来るなって言っただろう。さっさと帰」

僕は黙る。

ジャイアンは、叫んだ。
「うるせえ!!ゴシャゴシャいうとぶっ飛ばすぞ!!!」
叫んで、スネオの胸倉を掴んだ。
スネオは、冷たく笑う。

595 :1 ◆vC.kHTi4RE :2006/01/23(月) 16:46:40.97 ID:8HClBXzD0
ジャイアンは拳を上げたまま、動けずにいた。
スネオはまた、ひひっ、とあの笑い方をして、ニヤニヤと笑っていた。

「どうしたの?殴らないの?ジャイアンらしくないんじゃないの?」
笑いながらジャイアンを挑発するスネオ。
二人の関係も、あの頃と比べるべくもなく、絶望的に遠く。
ジャイアンはプルプルと震えながらも、そっとスネオから手を離した。

「高井山、行こうぜ……」
力なくそう言うジャイアンに、もはやガキ大将の影を見つけることはできなかった。

599 :1 ◆vC.kHTi4RE :2006/01/23(月) 16:50:55.27 ID:8HClBXzD0
スネオは、ひと思いに殴られてこの状況をさっさと終わりにしたかったのだろう。
分からないけど、そんな気がする。
だから、スネオは黙って頭を下げるジャイアンのことを、ばつの悪そうな顔で見つめた。
ジャイアンは、頭を上げない。
スネオは何も喋らない。

窓を揺らす風の音だけが、僕らの鼓膜に届く。

何分くらいそうしていただろうか。
不意にスネオが
「何か、道具を出してくれるんなら、行くよ」
と、小さな声で呟いた。
瞳の色は……暗くて読み取れなかった。
僕は、彼の手を取り
「道具は、出す。だから、行こう」

そう言って、どこでもドアをくぐった。

612 :1 ◆vC.kHTi4RE :2006/01/23(月) 17:03:36.87 ID:4F8gaAM/0
僕らは高井山に着いた。
吹き付ける風に、木々がざわめいている。
月が、雲の隙間からまた顔を出した。
柔らかな月光が、スネオの顔を優しく照らす。
彼は、笑っているような、泣いているような、そんな複雑な表情をしていた。
その顔は、いつか見た夢の顔と、不思議と似ていた。

「……早くしてくれよ。さっさと道具、出してくれよ」
スネオはそう言って、貧乏ゆすりをしている。

「……こっちに来てくれ」
僕が導くと、スネオは黙って着いてきてくれた。
ジャイアンとドラエもんも、その後に続いて。

613 :1 ◆vC.kHTi4RE :2006/01/23(月) 17:05:52.13 ID:4F8gaAM/0
目の前に、茫洋と広がる湖があった。
湖面は、風に波打ちながら月明かりに照らされきらきらと光っている。
僕たちは、この湖を知っている。
この湖を訪れたことがある。

鉄人兵団と戦った、あの日。

620 :1 ◆vC.kHTi4RE :2006/01/23(月) 17:11:20.40 ID:8HClBXzD0
「覚えてるだろう……ロボットが大挙して地球に押し寄せてきた、あの日のこと」
「……」

スネオは黙って、水面を見つめている。

「僕らは、たった4人で、鉄人兵団に立ち向かった」
「……」

びゅう、と強い風が吹いて、水面は激しく凪いだ。

「それだけじゃない……原始時代の日本にも行ったし、魔界にも行った。
ブリキの王国でのことも、牛魔王とのことも、全部、みんなで…
みんなで乗り越えてきた。そうだろう?」

僕は一言一言、ゆっくりと語りかけた。
風は、もう止んでいた。

623 :1 ◆vC.kHTi4RE :2006/01/23(月) 17:17:24.99 ID:8HClBXzD0
「……だから、どうしたって言うんだよ!」
耳をつんざく刹那の嬌声。
スネオが声を荒げた。

「確かにそんなこともあったよな!
でも昔のことだろ!
もう過ぎたことだろ!
それが、それが今の僕に……なんの関係があるっていうんだよ!」

スネオが僕に掴みかかってきた。
手を振り解こうとは思わない。
殴られるのならば、それでも、いい。
しかしスネオは、殴ることはしなかった。
そのまま力なく、手を放した。

「どうせ君たちに僕の気持ちは分からないよ。
のうのうと幸せな生活を送っている君たちに、僕の気持ちなんか…」

言い終わる前に、スネオは弾け飛ぶように地面に転がっていた。
ジャイアンが、拳を握ってスネオの前に立っていた。

638 :1 ◆vC.kHTi4RE :2006/01/23(月) 17:23:39.12 ID:8HClBXzD0
「……お前一人が、不幸なわけじゃねえ」
はあはあと息を荒げながら、ジャイアンは喋り始めた。

「俺の父ちゃんは、ジャイ子が産まれてすぐに死んだ。
かあちゃんは、女で一つで俺たちを育ててくれた。
うちは貧乏だったし、今だって貧乏だ。
でもそれを憎むつもりも恨むつもりもねえ。
それなのにお前は……
黙って聞いてりゃ、うじうじつまんねえこと言いやがって……」
そう言って、再び拳を握ったジャイアンは、スネオににじり寄った。
その時である。

「貧乏が辛いんじゃない!」

スネオは絶叫した。
ジャイアンは、びくっ、と肩を震わせ、そのまま立ち止まった。

645 :1 ◆vC.kHTi4RE :2006/01/23(月) 17:29:52.85 ID:8HClBXzD0
「人は、裏切るんだ……」
ぽつり、とスネオは喋り始めた。

「どんなに心を通わせたと思っても、人は、いつか去っていくんだ」

スネオは、問わず語りに喋る。
昼間。スネオが話した言葉を思い出す。
『お金がある骨川さんが好きだったのになあ』
そんな言葉を投げつけられたスネオ。

新しい玩具。
新しい漫画。
別荘、海外旅行。

財を使って友人の心を引き付け続けてきたスネオ。
そして今、財を失ったスネオ。

彼は今、何を思っているのだろうか。

「僕にはもう、何もない。
もう何も失いたくない。
失うくらいなら、最初から何も、いらない」
スネオは語り続ける。

651 :1 ◆vC.kHTi4RE :2006/01/23(月) 17:35:26.19 ID:8HClBXzD0
「無償の友情、無償の愛なんて、有り得ないんだよ。
そうだろ?ドラエもん」

ドラエもんに向き直って、スネオは言った。

「君だってさ、表向きは見返りなしにのび太のことを助けてるけどさ、
結局は君の将来だってそれで明るくなるんだろ?
だから一緒にいるんだろ?」

違う、とは言えない。
ドラエもんは、僕の未来を変えるために、やって来た。
僕の孫、セワシの命令で。

「ジャイアンもさあ、僕といたのは、僕の玩具や漫画が目当てだったんだろ?」

ジャイアンは複雑そうな顔をしている。
幾度となくスネオから物を取り上げた光景が、瞳の裏で蘇る。
そんなことはない、と言うのは簡単だ。
しかし、その理由を説明するのは……ひどく難しい。今のスネオには。

656 :1 ◆vC.kHTi4RE :2006/01/23(月) 17:39:33.59 ID:8HClBXzD0
でも、そうじゃない。
そんなことはない。
無償の友情は、きっとある。
無償の愛だって、きっと。
僕はそれを教えるために今、スネオと対峙しているのだ。

「……もういいだろ。もう昔の僕じゃないんだよ。
君らとこうして話してるのだって、正直辛い。
だから、さっさと道具出してくれよ。
一人で生きれるための、道具をさ」

そう言ってスネオは、ドラエもんに向かって、手を差し伸べた。
ドラエもんは困ったような顔をして僕を見る。
僕はドラエもんの目を見て、こくり、とうなずいた。
ドラエもんがポケットに手を突っ込む。

ポケットから、一体のロボットが、現れた。

660 :1 ◆vC.kHTi4RE :2006/01/23(月) 17:44:49.08 ID:8HClBXzD0
「ミクロス……」
「そう、鉄人兵団との事があった時……君が作った、ロボットだ」

ミクロスは表面上は単なるラジコンロボットだ。
でも、ドラエもんの道具により知能を与えられ、自身で考え、活動ができる。
しかしロボットが勝手に動き、喋るその姿は、世間的にあまりにも不自然であったため、
鉄人兵団との一件からしばらくして、ドラエもんが預かることになった。

そのロボットが、今、スネオの眼前に、いる。

669 :1 ◆vC.kHTi4RE :2006/01/23(月) 17:55:25.97 ID:8HClBXzD0
ミクロスはスネオの下に、静かに歩み寄った。

「スネオサン」
「……」

スネオは、何も答えない。

「スネオサン、オヒサシブリデス」
「……」

スネオは何も、答えない。

「オゲンキデシタカ?」
「……元気なわけ、ないだろ」

やっと、答えた。

671 :1 ◆vC.kHTi4RE :2006/01/23(月) 17:58:51.89 ID:8HClBXzD0
「ソウデスカ。デハ、アソビマショウ」

ミクロスは、無邪気に喋る。
ロボットらしく、平板な口調で。
その口調が、その言葉が、スネオの神経を逆撫でした。

「……うるさいんだよ!放っておいてくれよ!
ロボット風情に……ロボット風情に僕の気持ちが、分かってたまるか!」

スネオが、ミクロスを突き飛ばした。
瞬間、弾かれたようにジャイアンがスネオに殴りかかったが、
僕とドラエもんで必死に止めた。

「スネオサン、ドウシタノデスカ?」
ミクロスは、相変わらず呑気に聞いている。

673 :1 ◆vC.kHTi4RE :2006/01/23(月) 18:01:09.71 ID:8HClBXzD0
「スネオサン、スネオサン」

ミクロスは立ち上がり、スネオの周りに纏わりついた。
スネオはまたミクロスを突き飛ばす。
ミクロスは、何度でも立ち上がる。
スネオは、何度でも突き飛ばす。

「スネオサン、スネオサン」

ミクロスの、平坦な声だけが夜の高井山に響いた。

677 :1 ◆vC.kHTi4RE :2006/01/23(月) 18:08:15.44 ID:4F8gaAM/0
「……なんなんだよ!!」
はあはあと息を荒げて、スネオは言った。

「なんで僕に構うんだよ!
何度も何度も突き飛ばされて!
痛いだろ!ムカつくだろ!
なんなんだよ!なんなんだよお前は!!」

ミクロスはまた立ち上がり、きょとんと――表情のないはずの彼は、確かにきょとんとして、
スネオを見つめた。

「ダッテ、スネオサンハ、ボクヲツクッテクレタ」
平板な声、でもそこには確かに、感情が込められていた。

「ボクハ、スネオサンノオカゲデ、セカイヲシリマシタ
スネオサンノオカゲデ、ソラヤ、ツチヤ、ハナヲシリマシタ
スネオサンハ、ボクノスベテデス。
ナニガアッテモ、ナニヲサレテモ、ボクハズット、ソバニイマス」

見上げると雲はもうなく、満天の星空が、僕らを包んでいた。

680 :1 ◆vC.kHTi4RE :2006/01/23(月) 18:12:10.87 ID:vxRdQm6A0
「ロボットが……ロボットが分かったようなことを……言うな!!」

ミクロスの言葉は、スネオに届かなかったのだろうか。
スネオは、振り上げた拳をミクロスに叩きつけた。
がしゃん、という音がして、ミクロスは遥か後方に弾け飛んだ。

瞬間、僕の横を大きな影が過ぎ去った。
ジャイアンだ。

平手で、スネオを横殴りにはたくと、そのまま馬乗りになって、殴りつけた。

「おめえは…いつまでそうやって!
いつまでそうやって文句言ってるつもりなんだよ!」

ジャイアンは、泣きながらスネオを殴った。
スネオも泣いていた。
僕も、そしてドラエもんも。

683 :1 ◆vC.kHTi4RE :2006/01/23(月) 18:16:47.58 ID:vxRdQm6A0
ジャイアンは、何度も、何度もスネオを殴りつけた。
口は切れ、鼻血が流れ、スネオの顔中が腫れていく。
それでもジャイアンは、殴るのをやめなかった。
そして、誰よりも痛そうな顔をしていたのもまた……ジャイアンだった。

どのくらいの時間が過ぎただろうか。
はあはあと肩で息をしているジャイアン。
顔を真っ赤に腫らし、ぼろぼろと泣いているスネオ。

静寂だけが、あたりを包んでいた。

687 :1 ◆vC.kHTi4RE :2006/01/23(月) 18:23:03.36 ID:8HClBXzD0
その時だった。
ジャイアンの左方からミクロスがやって来て、ジャイアンを殴った。
あまりにも非力なそのパンチは、しかし、ジャイアンを止めるには十分すぎるほどだった。

「スネオサンカラ、テヲハナシテ……」

ジャイアンはバツの悪そうな顔をしながらも、わかったよ、と呟いてスネオから離れた。
ジャイアンはスネオを上から見下ろしながら、静かに言った。

「スネオ、これでも、こいつがロボットだからお前の気持ちが分からない、
とか言うのか……?」

スネオは、もう何も言わなかった。
何も言わず、ジャイアンの方に近づく。
刹那、スネオは―――ジャイアンを突き飛ばして、山を駆け下り始めた。

「追おう!」
僕らも、後を追って全力で走った。

689 :1 ◆vC.kHTi4RE :2006/01/23(月) 18:25:57.11 ID:8HClBXzD0
ミクロスの気持ち、そして言葉は、確かに伝わったはずだ。
スネオの涙を見れば、分かる。そのくらいは。

しかし……それでもなお。
スネオのトラウマは克服できなかっただろうか?

(もう、失いたくないんだ)

スネオの発した言葉が、耳に残る。
頼む、スネオ。
もう一度、僕らと―――

690 :1 ◆vC.kHTi4RE :2006/01/23(月) 18:28:49.10 ID:8HClBXzD0
山を降りると、目の前には国道が広がっていた。
スネオは―――いた。前方50mほどの場所を、ひた走っていた。
その姿を見るが早いか、僕らは駆け出した。

「スネオくん!」
ドラエもんが叫ぶ。

「スネオ!!」
ジャイアンが大声で呼ぶ。

「スネオーー!!」
そして僕もまた。

しかしスネオは止まらない。
何かを振り切るように、懸命に走っている。

そしてスネオは―――赤く光る横断歩道に、飛び込んだ。

697 :1 ◆vC.kHTi4RE :2006/01/23(月) 18:33:00.62 ID:+b7jmPYc0
瞬時、世界はストップモーションの様にゆっくりと動き始めた。
スネオの右側から、大きな、大きなダンプカーが、やって来た。
ジャイアンは、声の限りに叫び、届くはずもない手を、スネオに向かって差し伸べる。

ドラエもん、泣き叫びながら、ポケットの中に手を突っ込む。
ガラクタのような道具ばかりが、あたりに散乱し始めた。
ドラエもんは、いつもこうだ。

そして、僕は。

膝から崩れ落ち、目がくらむほどのライトに包まれたスネオを、ただ見つめた。
スネオの顔は――泣きながら、笑っている。

705 :1 ◆vC.kHTi4RE :2006/01/23(月) 18:37:53.50 ID:4F8gaAM/0




刹那。

一陣の風が、僕の横を、通り抜けた。

一瞬のことだった。

トラックは直前でブレーキをかけたのだろう。
ギィィィィィィィ、と凄まじい音を立て減速し、
一瞬後に、どん、という音だけが、国道になり響いた。

僕は立ち上がり、横断ほどに駆け寄った。

僕らが見たのは、転んだ拍子にしりもちをついて呆然とするスネオと、
ばらばらになった、ミクロスの姿だった。

708 :1 ◆vC.kHTi4RE :2006/01/23(月) 18:39:57.62 ID:4F8gaAM/0
誰も動けなかった。
誰も、何も言えなかった。

ただ、バラバラになったミクロスの姿だけが、そこにあった。
トラックの運転手は、スネオが無傷なのを確認すると
「気をつけろ!!」
とだけ言って、そそくさと走り去った。

715 :1 ◆vC.kHTi4RE :2006/01/23(月) 18:42:52.43 ID:+b7jmPYc0
スネオは暫く放心したような状態になり、しかしすぐにミクロスの破片をかき集めると
ドラエもんに詰め寄った。

「復元ライト!復元ライトを貸しておくれよ!!」
スネオは、泣きながら懇願した。
ドラえもんは、こくり、とうなずくと急いでライトを出した。

ライトの強い光が、ミクロスを包む。
ミクロスは元の形に戻った。

しかし、ミクロスがまた喋りだすことは、なかった。

719 :1 ◆vC.kHTi4RE :2006/01/23(月) 18:46:06.11 ID:8HClBXzD0
「……なんで?なんでだよ!なんで動き出さないんだよ!
なあドラエもん!どうしてなんだよ!!」

ドラエもんに激しく詰め寄るスネオ。
ドラエもんは、苦々しく言葉を繋いだ。

「ミクロスは、もう、ただの機械じゃなかったんだ……
観念的な話になるけど……君と過ごした生活の中で……その……
魂みたいなものが、宿ったんだと思う」

スネオはドラエもんの肩を掴んだまま、離さない。

「壊れたパーツを集めて、繋ぎ合わせることはできるけど……
形のない魂は……僕の道具でも、復元、できないんだ……」

スネオは、がっくりと崩れ落ち、声を上げて、泣いた。

723 :1 ◆vC.kHTi4RE :2006/01/23(月) 18:48:07.79 ID:8HClBXzD0
(ここから最終章に入ります
最後だけ、スネオ視点になります。
いろいろな矛盾点はあったかと思いますが、ご容赦下さい。
それでは、いま少しお付き合い下さい)


736 :1 ◆vC.kHTi4RE :2006/01/23(月) 18:58:56.88 ID:8HClBXzD0
9月1日――――

あの日から、約2週間が過ぎた。
僕はと言えば、相変わらずの毎日を送っている。
「時和荘」の家は、ひどく湿っぽく、壁だって薄いし、何より住んでる人が、怖い。
パパの借金は、未だ莫大な額が残っている。
ママは、やっぱり家にあまり帰ってこない。
最悪の現実は、こうして続いていく。
でも
これでいいんだ、とも思う。

ドラエもんは、僕に借金を消す助力を申し出た。
僕は、少し悩んだけど、それを断った。
前みたいに、頑なになっているわけではない。
自分の意思で、そう選んだ。

745 :1 ◆vC.kHTi4RE :2006/01/23(月) 19:03:44.30 ID:8HClBXzD0
今回のことで、僕は真正面から自分の心の弱さに向き合った。
僕の心は、弱く、臆病だった。
臆病だったから、現実を憎み、社会を憎み、友を、憎んだ。

心の強さとは、なんだろうか。
僕には、まだ、よく分からない。

よく分からないけど、ちょっとは、強くなれたかな、と思う。

僕はもう、迷わないのだから。
おせっかいで、情に厚くて、自分より他人のことが大切な、みんながいるから。
それに……

その時、窓から爽やかな風が吹いた。
部屋の片隅に集められたミクロスの欠片が、かたかた、と音を立てた、そんな気がした。

748 :1 ◆vC.kHTi4RE :2006/01/23(月) 19:06:17.17 ID:8HClBXzD0

夏が過ぎ 風あざみ

だれの憧れにさまよう

青空に残された 私の心は夏もよう

夢が覚め夜の中 長い冬が

窓を閉じて 呼びかけたままで

夢はつまり 想い出の後先(アトサキ)

夏祭り 宵かがり 胸の高鳴りに合わせて

八月は 夢花火 

私の

心は

夏もよう

759 :1 ◆vC.kHTi4RE :2006/01/23(月) 19:09:24.58 ID:8HClBXzD0
―――――エピローグ

校庭が見える。
チャイムが鳴っている。
僕は、息を切らして走り、教室に向かう。

ジャイアンとのび太には、あれ以来会っていない。
怒られるかもしれない。
「心配かけんな!」
と殴られるかもしれない。

でも、それで、いい。
殴られたあと、にっこり笑って、また馬鹿をやれれば、それで、いい。

僕の、最初に言う言葉はもう、決まっているのだから。


「みんな、おはよう!」

761 :1 ◆vC.kHTi4RE :2006/01/23(月) 19:09:48.85 ID:8HClBXzD0

(スネオの夏 END)

775 :VIPがお送りします :2006/01/23(月) 19:14:07.69 ID:m6ZoMXrJ0
この小説はウイルスだな
モニターが歪んで見える

779 :VIPがお送りします :2006/01/23(月) 19:14:36.24 ID:0shZZcUp0
>>1
乙www
泣けたよぅ ・゚・(ノД`)・゚・

799 :1 ◆vC.kHTi4RE :2006/01/23(月) 19:23:54.46 ID:8HClBXzD0
ここまでお付き合いいただいた皆さん、本当にありがとうございます。
途中のシモネタへの改変に、心が折れそうにもなりました。
無駄にウィンドウを破壊したい衝動にも駆られました。

でも、しかしそれでも。

今の達成感は、何にも代えがたい・・。

本当に、ありがとうございましたお^^






「スネオの夏」まとめサイト
http://blog.livedoor.jp/vip9/


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【2006/01/23 19:43】 | 〆(・ω・ ) ヨミモノ | トラックバック(0) | コメント(1) |
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コメント
泣いた
どんな映画や小説でも泣いたことなかったのに…
【2006/06/11 15:14】 URL | 名乗るのマンドクセ('A`) #79D/WHSg[ 編集]
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